2021 #3 テーマトーク報告

2021年度 第3回 インクルーシブ・テーマトーク

テーマ

『パラリンピックの残したもの』~パラリンピックで進んだこと、まだまだ残る課題~

ご講演者

川内 美彦 様 アクセシビリティ研究所主宰 
 (一社)日本トイレ協会副会長。東洋大学人間科学総合研究所客員研究員。元東洋大学教授。一級建築士。博士(工学)。 頸髄損傷により19歳から車いすを使用。障害のある人の社会への関わりについて、「人権」や「尊厳」の視点で分析し、平等な社会参加を権利として確立していく活動を展開。パラリンピックの運用面に関しても多数の知見を提供。

小川 歩美 様 オンボラ・コミnet 共同代表 
 東京オリンピック・パラリンピックのボランティアを目指すために2017年より活動開始。大会期間中は国立競技場を始めその他の会場でボランティアとして活動。大会後は指導員の資格を取得しパラスポーツイベントを始め、各種イベントのボランティアとして活動を継続中。

実施日時

2022年3月2日(水)16:00~17:30

実施形態

Zoom

実施内容:講演とディスカッション

 上記の日程で、第3回インクルーシブ・テーマトークを実施しました。インクルーシブ・テーマトークは、インクルーシブデザイン、ユニバーサルデザインに日々取り組んでいる方、これから取り組もうと考えている方を対象として、インクル-シブデザインの実践事例や、その開発手法、評価手法などを共有すること、また、参加者相互の交流の機会をつくり、インクルーシブデザインの発展、普及を加速する事を目標に今年度からスタートしました。この活動を通じ、最終的にはインクルーシブデザインネットワークの目標とする、インクルーシブな社会づくりと福祉の向上に寄与することを目的としています。
 今回のテーマトークは、インクルーシブデザインネットワーク会員企業の皆様、一般ご参加の皆様合わせて、40名弱の参加で行いました。

講演内容

川内様のご講演

川内先生画像

オリパラ開催に向け、国内では様々な変化があった。

法律、ガイドラインの整備

 2014年に障害者権利条例を批准するために、2011年から障害者基本法を始め各種法制の整備が進められ、その後、2018年、20年のバリアフリー法の改正につながった。

ハード面での改善

 2000年の交通バリアフリー法により、移動を保障するものとして以下の整備が進んだ。2000年の段階では、点字ブロック約57%、エレベータの設置 29%、車いす対応トイレ 0.1%の設置率であったが、2019年、一日当たり3,000名の乗降客のある駅に関しては、ほぼ全ての駅(3000人/日以上の乗降客のある駅)に整備完了し、さらに1日の利用客数10万人以上の駅を中心にホームドアの設置も進んでいる。
 UDタクシーの普及に関しても順調に進んできた。UDタクシーはドライバーにとって運転しやすいと評価される一方で、車いす乗車のためのスロープ等の準備に手間がかかり、乗車拒否がしばしば行われている。
 同じく、オリ・パラのスタジアムに関してはガイドラインを用いて、車いすの観客席からの視線を確保する「サイトライン」等が確保されている。一方で、日本は法律に定めずガイドラインの扱いのためにオリ・パラレガシーとして定着してはいない。 

理念の面から

 IPCガイドでは「アクセスは基本的人権であり、社会的公正の基本」と示している。これは、2014年に日本が批准した「障害者基本条例」と同じ思想である。
 一方で国交省は「障害のある人の移動権は社会的コンセンサスが得られていない」というスタンスを持っている。
 「2020行動計画」では、「すべての人がお互いの人権や尊厳を大切にして支え合う共生社会の実現を目指す」とほぼ障害者基本条約と同じ内容を示していたが、「TOKYOガイド」では、「すべての人々が相互に人格と個性を尊重しあう共生社会の実現に貢献することを目指す」としている。さらに、2018年の「バリアフリー法」では、「分け隔てられることのない共生社会の実現」と表現をされ、「人権」「尊厳」がどんどん薄まっていくとともに、共生社会の定義が曖昧になっている。また「心のバリアフリー」では、「コミュニケーションをとって支え合う」と示し、方法論は明記されているが人権や尊厳に関する記述はない。
 「権利」「尊顔」は人の内にあるもので、「こころ」「やさしさ」「思いやり」はまわりの人間がその対象に対していだくものと考えられ、本人には関係無い事柄である。「尊厳」や、「権利」は感情の問題として扱うべきものではなく、憐れみから助けられても決して平等にならない。

「心のバリアフリー」の問題は、以下の3点である
① 本人の中にある「権利」「尊厳」の問題をまわりの感情にすり替えている。
②「心」という言葉を使うことで「権利」「尊厳」から視点をずらしている。
③「心のバリアフリー」がどういう社会を目指すのか示されていない。

そこからオリパラの残したものは、以下の様にまとめることができる。
○ ハードは各種改善が進んだ。国立競技場は当事者の声を反映しながら設計が進んだ。
○ 法ではなくガイドラインや運用に任せているのでこの先の定着が見えない。
○ 理念「尊厳」「権利」が骨抜きになり、「心のバリアフリー」であることになった。しかし、目指す具体的なゴールが示されていない。

小川様のご講演

小川さんの画像

 2017年開催の東京マラソンよりボランティア活動をスタートした。オリンピックでは、有明スケートボード会場、横浜の野球・ソフトボール会場などで活動。パラリンピックでは、東京の車いすバスケットボール会場および、開閉開式でのセレモニーキャストや観光案内のシティーキャストとして活動を行った。
 オリ・パラがコロナ禍で1年開催が延期されたことで、オンラインでの活動が増え、海外のお客様をお招きするバーチャルツアーや都市の魅力を発信するYouTube動画などにも参加した。
 パラリンピックでは、武蔵野の森会場でウォームアップコートの管理を行った。コロナ禍で、選手を含む関係者間の接触を減らすため、現場でのゾーニングが厳しく、「十分な通路幅が確保できない」「動線が複雑・遠い」といった声が聞かれた。
 パラリンピック開閉開式では、200名程度のキャストの中に、車いす利用者が10名程度配置されていた。また、川崎市のボランティアで、等々力陸上競技場で、英国チームの事前キャンプサポーターとして対応した際、オリンピックの選手よりもパラリンピックの選手の方が、サポーターに対する笑顔が多いことが印象的であった。
 これらの活動を通じ、初級障がい者指導員の資格を獲得。オンラインでの勉強会も進め、ボランティアのノウハウなどを広く共有する目的で、ボランティアのコミュニティとしてオンボラ・コミnetの共同代表に就任。

パラリンピックは何を残したのか?

 パラスポーツやボランティアに対するまわりの理解が進み、パラスポーツが福祉の視点からスポーツイベントの視点へ変化したと言える。障害者への対応の重要性が理解されスポーツイベントにおいて、ボランティア間で共通認識が育ち、車いす誘導担当などの専門の役割ができてきた。

感じたもやもや課題感

 オリンピックやパラリンピックではコロナ対策の一環で、スタジアムが本来の使われ方と異なるゾーニングで利用をされていた。本来と異なる大会固有のゾーニングでの運用はコロナに関係無く、マラソン大会などの大きなイベントでも行われており課題である。また、この機会に整備された会場が今後も同様に継続使用されるかも課題である。

 またパラスポーツの対応ノウハウなどは一カ所に集約されておらずに、オリ・パラ準備室の解散後はノウハウの活用に課題がある。

質疑・ディスカッション

Q. 国交省がコンセンサスが得られていないと言い切れる根拠は手間暇かけて何を回避したかったのか?
A. 権利を認めると国に環境整備の義務が生まれるということで国交省は権利を積極的に認めていない。本来は、権利を認めて、現実の難しい部分に関しては、国民と議論をして落としどころを探すことを進めるべきである。

Q. 人権と尊厳が曖昧な言葉に置き換えられた理由
A.「権利」を認めたくない意図があった他に、日本人のメンタリティーの中に、「人権」「尊厳」とのなじみの薄さがあり、「やさしさ」「おもいやり」の方が合致するのではないか。

Q. ボランティアに貯まった情報はどのように蓄積され共有されているか。
A. オリパラに関してはボランティアに対するアンケートなどは実施されていない。組織委員会も解散しているので、ボランティアノウハウは集約されていない。

 小川さん達がボランティアをネットワーク化したことはノウハウの蓄積の面ですごく大きいと思う。

 行政、イベント主催者として、ボランティア側のノウハウを持つ人を実行委員会に加えた早くから対策する気持ちを持つことが大事。

Q. オリパラ会場と他の会場とのアクセシビリティの相違はあったか?
A. 東京都でも地域毎に各国のサポートが行われていた。そこから言えるのは、車いすパラリンピアンの移動に際し、専用のバスは乗り降りするのに大きなスペースを要するのに、地方のスタジアムの周辺道路は狭くバスが近くに駐められないなどの問題もあり、スタジアムだけで無く、周辺環境も合わせての問題といえる。

いくつかの質問は時間的に答えられず、この後のインクルーシブセミナーで継続してディスカッションを行いました。

以上

これまでのインクルーシブ・テーマトーク報告

第2回テーマトークにリンクします。
第1回テーマトークにリンクします。