子どもユニバーサルデザイン授業への取り組み
2016年度から2018年度にかけて実施している子どもユニバーサルデザイン(以下UD)授業への取り組みを報告します。
1.UD授業の経緯と実績
小中学校でのUD授業はその事例が増えつつありますが、多くは企業、大学、自治体、非営利団体等の外部指導者が協力しています。UD授業の実施には、まず学校としては外部指導者を探す、指導者側も学校のニーズを探る、という双方の手探り状態から始めなければなりません。和田(筆者)は、在住の東京都武蔵村山市のボランティア・市民活動センターに、UD指導を軸とする教育ボランティアとして人材登録しました。
その結果、2016年に武蔵村山市立第二小学校から依頼がありUD授業をスタートしました。その後、他の市内小中学校からの依頼も増え、2018年度からはインクルーシブデザインネットワークの活動としてUD授業を実施しています。これまでの実績を以下に記します。
●2016年度
- 小学校 2時間授業10回(3~6年生18名)
●2017年度
- 小学校 2時間授業10回(3~6年生11名)
●2018年度
- 小学校 2時間授業10回(3~6年生13名)
- 小学校 1時間授業(視覚障害者疑似体験)1回(5年生 約80名)
- 中学校 2時間授業5回(2年生 約250名)
- 中学校 1時間授業(高齢者疑似体験)7回(2年生 約250名)
- 中学校 2時間授業(高齢者疑似体験)1回(1~3年生 15名)
2.武蔵村山市立第二小学校のUD授業
武蔵村山市立第二小学校(以下、武蔵村山二小と略す)ではエキスパートタイムと称して、児童が自らの興味・関心に基づいて講座を選択、1年間、専門外部講師と担当教員の指導を受けながら、各教科と関連した知識・技能を育成するという教育を実施しています。3~6年生を対象に講座が18種類(2018年度実績)あり、UDもその一つです。
UDの受講者は2016年度18名、2017年度11名、2018年度13名、合計42名になります。10回(2時間授業)の通し授業という点と、希望した児童の参加なので、理解や習熟度で高い教育効果が得られます。以降は2016年から2018年までの武蔵村山二小におけるUD授業の総括を報告します。
3.年間授業の流れと教え方の工夫
この学習の目的は「UDの必要性(人の多様性や共生社会への参加)を知り、自分たちでUDを考えること」です。UD作品が成果となるのは大きな特徴ですが、それまでの過程はとても大切です。
スタート時、参加者にこの講座の希望理由を聞くと「おもしろそう」「楽しそう」といった声がほとんどです。この気持ちを継続させ、最終的には「自分で考える」「表現する」「伝える」力がつくような授業構成を考慮しながらやっています。
UDは答えが一つではないし、正解がないこともあります。したがって「答を教える」より「何を考えさせるか、どうやって教えるか」に重点を置いています。以下に各回の授業内容概略と教え方の工夫点をあげます。
●第1回(5月)「ユニバーサルデザインとは?」
1)袋の中の物を手探りだけで当てる、口の動きだけで何を言っているのかを当てる、片手だけで折り紙を折るなど、身近な手段で身体に制約があるとどうなるかを感じてもらいます。
(2)世の中の事例を紹介し、UDとは何か?に気づき、興味・関心をもつことからスタートします。
●第2回(6月)「家の中のUD」
(1)各自が家の中で不便なモノ、便利なモノを探し、カードに「誰が」「何を」「どう不便・便利」なのかを書きます(図1、図2)。それらをボードに貼って発表、情報共有します。
2~3の班をつくり、クイズ形式でUDを学びます(図3、図4)。モニターを見ながらのクイズで班ごとに答えを話し合い、楽しみながら学習します。
●第3回(7月)「みんなのUDを見学する」
近隣の大型ショッピングモール店舗のUD事例を見学する校外学習です。公共の事例を現場で見ることでUDの工夫を実感します。
●第4回(9月)「家の外のUD」
(1)各自が家の外で不便なモノ、便利なモノを探し発表します。第2回と同じ進め方ですが、前回の校外学習や夏休みを経て、観察の幅を広げます。
(2)UDクイズ(家の外編)
第2回と同じ進め方ですが、公共性のある問題やマナーの問題を出します(図5、図6)。
●第5回(10月)「体験してみよう」その1
●第6回(11月)「体験してみよう」その2
第5回では車いすに乗る、杖で歩く(片まひ)、妊婦の疑似体験(図7)、第6回ではアイマスク(全盲)、弱視ゴーグル(弱視)、耳栓(難聴)をつけた疑似体験(図8)を行います。
教室のなかの物や廊下を使い、それぞれの体験に4~5のタスクを設定、身体的な制約があるとどうなるかを感じてもらいます。また記録者がペアでついて、結果を評価・記録することも体験します。
●第7回(12月)「デザインしてみよう」
各自で身近なモノをデザインします。これまでは目覚まし時計、テレビリモコン、ペットボトルをテーマにしました。
最初にアイマスク、弱視ゴーグルをかけて現物に触る、片手だけで操作するなど、対象に触れてもらうことでアイデアのヒントにします。最後にデザイン案を発表してもらいます。
●第8回(1月)「調べてみよう」
テーマは「公園のUD」です。近隣の公園に行き、班ごとに設備と遊具の使いやすさを調べます。
公園を利用する多様な人(例えば、ベビーカーを押すお母さん、車いすの子どもなど)を想定、各自がその人の立場になって設備、遊具の使いやすさを調査シートに記入します。最後にその結果を大きなシートにまとめて全員が情報共有します(図9)。
●第9回(2月)「公園の設備・遊具のデザイン」
前回の調査を基に、公園の設備・遊具のなかから各自でやりたいモノをデザインします。一人ひとりが問題発見し解決案を考え、最後にデザイン案を発表してもらいます。
●第10回(2月)「公園全体のデザイン」
班ごとに公園全体のレイアウトをボードに描きます。マーカーで自由に描き消しできる大きなボードを使い、前回、各自がデザインした画はシールにしてボードに貼ります。この作業は全員が参画しやすくするため、班ごとに役割分担(全体レイアウトする人、利用者の絵を描く人など)を決めて行います。
4.デザイン成果
後半のデザイン実習で生まれた「多様な人への配慮」を考えたUD作品の事例をいくつか紹介します。
図10はリンゴジュースのペットボトルデザインです。色はリンゴらしい赤と緑色です。中味をイメージさせる色をつけると同時に、大きな文字で「リンゴ」と表記することで、色の識別が困難な人にも、わかりやすいデザインを考えました。形状は六角形で転がりにくく、フタは片手でも指にかかりやすい凹んだ形になっています。
図11は公園の入り口付近にある案内地図です。遊具やトイレ等がかわいい絵で描いてあって、とても楽しそうです。説明の墨字、点字もついていますが、それぞれにボタンがあり、それを押すと声で説明してくれます。一人でも多くの人にわかりやすいことを考えたデザインです。
図12はブランコのデザインです。標準的なブランコの隣に、背もたれとシートベルトがある身体の不自由な人も乗りやすいブランコが並んでいます。幼児用のブランコや、車いすやベビーカーの置き場所もあるので安心です。みんなが一緒に遊べること考えた優しさあふれるデザインです。
図13は公園全体のデザインです。遊具、水飲み場、トイレ、休憩場所などがエリア分けされています。入口付近の駐車場には障害者用スペースがあり、車いす貸出も数多く配慮されています。中央園路から両側のエリアに均等にアクセスしやすいレイアウトになっています。
5.授業に対する評価
終了後の児童からの授業に対するアンケート結果では2016年度から2018年度の3年間、参加者合計40人の評価を集計すると、全体を通しては93%の児童が「おもしろかった」と答えており、スタート時の期待に応えることができたと考えます。
また個々の授業に対する評価を聞くと、「おもしろかった授業」の傾向がわかります(表1)。
授業タイトル | 人数(人) | 割合(%) | |
第1回 | UDとは? | 16 | 40 |
第2回 | 家の中のUD | 17 | 43 |
第3回 | みんなのUD見学 | 26 | 65 |
第4回 | 家の外のUD | 16 | 40 |
第5回 | 体験してみよう(1) | 33 | 83 |
第6回 | 体験してみよう(2) | 35 | 88 |
第7回 | デザインしてみよう | 22 | 55 |
第8回 | 調べてみよう | 19 | 48 |
第9回 | 公園のデザイン(1) | 26 | 65 |
第10回 | 公園のデザイン(2) | 25 | 63 |
全体的には講義・座学的な授業より、その場で考える、皆と話し合う、外に出る、体験する、デザイン実習をするといったワークショップ型の授業のほうが高評価の傾向があります。
なかでも第5回、6回の疑似体験授業はそれが顕著です。道具を身に着けるという非日常体験は、児童にとっては興味深い時間です。また二人で交代しながら体験と記録(評価)をするということも、新鮮な経験です。疑似体験終了後のアンケートには「車いすの段差乗り越えが大変」「アイマスクをしてお金を数えるのは大変」といった感想が並びます。
こうした声を聞きながら、毎年、やり方を部分的に変えてわかりやすい授業を試行しています。
6.今後に向けて
この授業が参加児童に「おもしろい、楽しい」と感じてもらえたのは、UDへの気づきとして大きな意義があります。今後は児童にさらなるUDへの興味を持たせ、将来にわたって社会に役立つことの大切さを感じてもらえるような授業に発展させたいと考えます。例えば、障害者の講話や福祉施設現場見学などによる、多様な人々の生活実態をリアルに感じてもらう内容を加えることもアイデアの一つです。
そして、本活動はインクルーシブデザインネットワークの事業となり、東京2020応援プログラムの認証を受けたことと合わせ、参加メンバーや実施対象に広がりが生まれ、今後さらなる展開が期待できます。
謝辞
実施小中学校の関係教職員様、および障害者・高齢者疑似体験授業における車いすや体験セットの借用、運搬、ご指導をいただいている社会福祉法人武蔵村山市社会福祉協議会様に感謝申し上げます。
(記:和田紀彦)