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2021年度 第2回インクルーシブ・テーマトーク

実施日時:2021年10月20日(水)15:30~17:00
開催形態:Zoom
オンライン

テーマ:社会課題と実践事例『モバイルトイレ』の開発と社会に示す新たな可能性

 今回のテーマトークは、第1回同様、インクルーシブデザインネットワーク会員企業の皆様、一般ご参加の皆様、約40名の参加で行いました。

ご講演者

・トヨタ自動車株式会社 社会貢献部 内山田 はるか 様
・トヨタ自動車株式会社 ビジョンデザイン部 飯島 泰昭 様
・NPO法人 アクセシブル・ラボ 大塚 訓平 様

モバイルトイレ1号車
モバイルトイレ2号車
モバイルトイレ2号車の外観および室内の画像です。
2号車室内
2号車室内

ご講演内容

1.内山田 はるか 様のご講演

モバイルトイレ企画開発のきっかけは、「使えるトイレがなくて外出ができない、外出先が制限されてしまう」という車いす利用者のご意見から。車いす利用者のために、トイレの方を動かし、障害の有無にかかわらず、誰もが行きたい場所に行き、やりたいことに挑戦できる社会の実現を目指した。

2019年9月から、㈱リクシルと協同でスタート、2020年3月に1号車、2021年3月に2号車が完成。

プロジェクト推進にあたり、提案内容と経営の方向性の整合性を重視し「会社が目指す将来社会」と、「会社が提供できる価値」の2軸を意識して活動を進めてきた。

モバイルトイレは当初の目標通り、2021年の東京パラリンピックの開閉会式とマラソン競技で、公式トイレとして採用された。

今後の課題はモバイルトイレの実用化である。いくつかの自治体からは特に災害時の利用という観点で、高い関心が寄せられている。必ずしも大きな数字に表れない、小さな声に耳を傾けていくことで、実社会の多様化に向き向き合い合い、より多くの人々に大きな夢やチャンスが広げることを一助になることを期待して、モバイルトイレの普及に向けて活動を続けていく。

2. 飯島 泰昭 様のご講演

1号車では、健常者よりもトイレに時間がかかるという車いすユーザーを意識し、室内空間を通常の多目的トイレよりも広く取り、利用者がゆっくりくつろげる空間を意識してデザインを行った。

1号者完成後多数の当事者の方々から意見を収集し、2号車では1号車を見直し現実的なコンパクトなサイズを実現した。世の中に普及した際に、特別ではなく普通に街中にあっても景観になじむ外観を目指した。トイレ機能だけでなくより多くの人にとって有益なモビリティにすることを目指し、より多くの人々にとって有益な情報を発信するサイネージの機能を付加している。

モバイルトイレは当時配属2、3年の若いメンバーで作業を進めた。若手のデザイナーがデザイン作業からヒアリング、検証までを体感する意義としては、今後の車開発やその他の業務においてインクルーシブな視点を持つきっかけを得られる事だと感じている。このようなプロジェクトを継続的に実施し、社内にインクルーシブデザインの意義を身をもって理解した人材の醸成を目指したい。

3.大塚 訓平 様のご講演

東京大会のレガシーの重要なものとして、国際的に障害に対する偏見をなくそうと組織委員会が掲げた「#WeThe15」がある。これを日本にあてはめると約1,900万人が何らかの障害があることになり、日本の15歳未満の子供の人口より多い。

また、2013年から2018年にかけ、日本の人口は81万人減っているのに、障がい者人口は150万人増加している。「少子高齢化」の時代から「少子高齢多様化」の時代に入ったと言える。

これは、産業的に十分な伸び代があると言え、今回のモバイルトイレのように非常に優れた対応をビジネスとして進める企業の取り組みが見え始めている。

その際に仮説生成型でアプローチを行うインクルーシブデザインが重要である。「ビジョンをもってバリアフリー化を進める」「障害当事者をビジネスパートナーに迎える」「ルールに当てはめることよりも、『どんな社会にすべきか』というゴールを重視する」が実施に向けて重要なポイントである。

今後を見据えた際、障がい者を含めた生活者の困り事が集まり、意思を持った企業との接点を提供することも重要と考え計画を進めている。

4.ディスカッション

 今回のような活動を社会全体の活動に拡大するためには、障がい者がもっと声を出しやすく、企業とも関われる社会の雰囲気や仕組みが必要。そうして各々の声が届くようになれば、障がい者の社会進出や自己実現が進む。企業側としては、機能的な満足からQOL向上に拡大するには、問題解決のアプローチだけでなく、利用者のバックグラウンドや利用者そのものを理解する必要があり、そうした密なアプローチが開発者の社会参加を促し、自己肯定感を高めることにつながる。このようにして生まれたものは、障がい者だけでなくより多くの人にとって使いやすいものであるという共感が広がる事により、皆がもっと過ごしやすい社会の実現につながると考えられる。

過去のインクルーシブ・テーマトーク

2021年度 第1回
2021年7月27日(火)

「実践事例:インクルーシブデザイン視点で既存エレベーターホールの動線改善」
・株式会社コンセント プロデューサー 堀口真人 様