インクルーシブデザインネットワークは、東京都武蔵村山市の小中学校でユニバーサルデザインの授業を行っています。その中で今回は、武蔵村山市立第五中学校での授業について報告します。
●実施経緯
武蔵村山市立第五中学校は、2018年度2年生の総合学習で「高齢者とユニバーサルデザイン」をテーマに取り組んでいます。私たちインクルーシブデザインネットワークは学校からのご依頼により、以下の授業を実施しました。
講師:和田紀彦(インクルーシブデザインネットワーク)
(1)高齢者疑似体験
2018年6月7日、8日:1時間授業7回
※武蔵村山市社会福祉協議会様から、車いす、高齢者疑似体験ツールを
借用
(2)ユニバーサルデザイン(UD)講義
2018年10月31日、11月6日、11月9日、12月18日、12月19日:
2時間または1時間授業5回
●学習の目的
疑似体験を通じて、高齢者や障害者の身体的制約を感じてもらう。講義ではUDの必要性(人の多様性や共生社会への参加)を学び、身近なUDの事例や課題に気づいてもらう。
●高齢者疑似体験
生徒たちに、車いす、杖(サポーターと重りを膝と肘につけ、杖をついて歩く片まひの体験)、弱視ゴーグルを使ってもらい、いくつかの日常生活動作をしてもらいました。生徒たちからはやってみると「こんなに大変なのか!」という率直な感想が数多くよせられました。例えば、車いすでは2cmの段差を乗り越えるのが難しい、高いところの物に手が届かない等。杖をついて歩くことはできても、座った姿勢から立ち上がるのが大変。弱視ゴーグルをつけるとトランプの数字もマークも見えない、といった不便さを実感してもらいました。終了後、「困っている高齢者・障害者の方々を見かけたら、お手伝いしたい」という感想がありました。成長著しい時期の中学生たちに老化・障害からくる身体的制約を感じさせることは難しいと思っていましたが、このような気持ちをもってもらっただけでも実施した意義がありました。
●ユニバーサルデザイン講義
「UDとは?」「五中校舎のUDを考えてみよう」「UDクイズ」の3つを2時間授業で学習しました。
五中校舎のUDは、身近なところからUDを知ってもらうためのテーマです。班ごとに事前学習で自分たちの学校内の問題点をUD視点でチェックしたうえで改善案を考えてもらい、その結果を授業で発表し共有しました。生徒たちは車いす等の疑似体験をしているので、教室や廊下等の基本的な問題点を見つけることができました。例えば、教室の机と机の通路が狭く、車いすでの通行が困難なこと等、使う人の立場で考えることや気づくことがができたのは大きな進歩です。
「UDクイズ」は班対抗のクイズ形式でUDについて学ぶものです。同じ班の生徒同士で話し合いながら楽しく学べるイベントのような授業です。五中校舎編、社会編、マナー編の三つのカテゴリーでUDに関連する問題をやってもらいました。今回、UDクイズを試行してみて、生徒たちが想像以上に知識の引き出しを持っていることに驚きました。例えば「エレベーター乗り場にある車いすマークのボタンを押すとどうなるか?」というクイズでは、多くの班が「扉の開時間が長くなる」という正解を答えています。また、難しい問題でも班全員で考えることができていたので、グループワークの点でも成果があったと感じています。
今回は数多くの生徒たちにUDの考え方を伝え、学んでもらえる機会をいただきました。今後もこの経験をいかしてUD授業の質を向上させて高齢者や障害者など、多様な人々のことを考えるきっかけにしてもらえればと思います。
Wada Toshihiko