ideathon2022report

インクルーシブデザイン・アイデアソン
アイデアソン2022の全体集合写真です。

インクルーシブデザインアイデアソンは、多様な人々を積極的にデザインプロセスの上流から巻き込む手法です。限られた時間の中で視覚、聴覚、四肢障害のあるリードユーザー共にワークショップを行います。デザイナーだけでは気づけなかった課題を見つけ、デザイン提案を行う参加型アイデアソンです

インクルーシブデザインアイデアソン2022

開催期間 : 2022年9月15日(木)~17日(土) 
会場: 芝浦工業大学 豊洲キャンパス
協力:芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 プロダクトデザイン領域 橋田規子教授 博士 

参加者: 42名
内訳
・企業参加者 21名(※)
・芝浦工業大学生参加者 10名 
・障がい者ユーザー 5名(四肢障がい 3名、視覚障がい盲導犬ユーザー 1名、視覚障がい白杖ユーザー 1名)
・メンター 6名(コクヨ株式会社より)

※ 参加企業14社~株式会社アイシン、コクヨ株式会社、株式会社コンセント、TOTO株式会社、豊田合成株式会社、トヨタ自動車株式会社、トヨタ紡織株式会社、トヨタループス株式会社、日野自動車株式会社、富士通株式会社、ブラザー工業株式会社、プラス株式会社、文化シャッター株式会社

開催方式・会場(3年ぶりにリアルでの開催)

会場になった芝浦工業大学 豊洲キャンパス

2022年は、芝浦工業大学教授、橋田規子様の多大なご協力をいただき、真新しい同大学豊洲キャンパスにて開催しました。2020年、2021年は、オンライン会議システムなどを用いての開催となりましたが、3年ぶりにすべてのプロセスにおいて、参加者がリアルに集い、観察とデザインづくりを行いました。

ユーザーさんとともにデザインを検討するデザイナー達

進行

第1日目(9月15日)

集合後、全員、検温・消毒・抗体検査を行い、オープンな階段講義場に全員移動し、スタートしました。

● 進行の説明、インプット講義

吹き抜けの開放的な階段講義場

まずは全員、オープンな階段エリアに集合。ファシリテータ、藤木武史さんから、導入講義をスタート。インクルーシブデザインの意義・事例や方法とステップを紹介しました。引き続き、5人のユーザーさんが自己紹介。

● アイスブレーク

初対面のみなさん、緊張をほぐしユーザーさんとのコミュニケーションを活発に行い3日間コラボレーションしてもらうため、、まずはアイスブレーク。今回のアイスブレークは、「全員で世界地図を作ろう」。お互いに声を掛け合い、出身地を確認しながら、みんなでどういう順番にならぶか決めていきます。だれかがリーダー・そのほかがフォロアーのチーム作りでなく、全員が主体的に発信して作ってゆくことの大事さも確認しました。また、意外な出身地の話や、出身地同士のローカルネタで盛り上がりました。

● チームビルディング

各チームの構成は、参加者デザイナー4~5名に加え、芝浦工大の学生2名、ユーザーさんが1名、チーム活動を支援するメンターが1~2名。発表されたチーム構成にそって、各チームともワークのための個室に入り、自己紹介など行います。自己紹介も即興で、昨日食べた昼ご飯を絵で描いて紹介するなど一工夫加え、盛り上がった自己紹介になりチーム活動がスタートしました。メンターが全体のファシリテータや事務局と綿密に連携し、チームの議論やデザインワークがプログラムに沿って行えるよう見守ります。

● フィールドリサーチ

フィールドリサーチの順路を説明する画像です。

今回の会場は、豊洲。有明のオリンピック・パラリンピックの会場も近隣にあり、豊洲市場や月島など、オリンピック・パラリンピックを機に、ダイバーシティを意識した整備も進んだエリアです。今回は、大学近郊の有明・豊洲・月島をフィールドワーク先として選定し、チームごとにフィールドリサーチを行いました。

フィールドリサーチでは、ユーザーさんとともに、街中でのいろんな体験を通し、プロダクト・サービスのデザイン開発を行うための、課題を発見します。 そのため、ユーザーさんと一緒に、公共交通機関で移動し、レストランや食堂などで食事をし、街のいろんな施設に入って、提供するものを体験してきます。

フィールドリサーチは豊洲や有明エリアに行くチーム、昔からの街並みが残る月島エリアに行くチームに分かれました。

月島に行ったチームは海外にも有名なもんじゃストリートに行き、もんじゃ焼きを一緒に食べたり、お土産屋などでショッピングを楽しみました。

有明に行ったチームは、有明アリーナや有明テニスの森などの競技場を視察した後、大型ショッピングモールにて昼食を楽しみました。

大型ショッピングモールにはゲームセンターも併設されており、視覚の障がいを持ったユーザーと一緒にモグラ叩きゲームを楽しんだりプリクラを全員で撮るなど日常の何気ない時間を全員で共有しました。

フィールドリサーチの移動手段には地下鉄、ゆりかもめ、バスなどの公共交通機関を利用しました。

フィールドリサーチでは、ユーザーさんと共に行動する事での気づきが重要です。バリアフリー対応の施設はユーザー視点ではどうか?補助となるツールは使われているか? 椅子・机・間仕切り等什器は使いやすいか? 食事場所は?

今回のリサーチではレディメイドのバリアフリーやユニバーサルデザインを超えて、直接ユーザーとの体験、観察、対話を通じてデザインのヒントとなる気づきを蓄積することが出来ました。

● 帰校、気づきの共有

フィールドリサーチから帰ったら、まずはチーム内で、ホワイトボードに向かって気づきを棚卸ししました。フィールドリサーチ中は口に出さなかったものの、棚卸し中にも気づいたポイントも出てきました。

棚卸しが終わったら、全員で最初の階段講義場に再度集合し、チームごとに、フィールドリサーチの報告と、気づきの共有を行いました。今日はデザインに関する話はせず、まずはどういった気づきが得られたのか、そこを意識化していきました。ファシリテータの藤木武史さん・木暮毅夫さんが、チームの気づきに対して、気づきを整理・定着するための観点、インクルーシブな、みんなに使われるためのデザインに起こすためのポイントなどを、チームごとにコメントしました。

初日はここまでで終了、2日目はいよいよデザインワークにかかります。

第2日目(9月16日)

この日は、初日に持ち帰ったフィールドリサーチの気づきを整理するところから、最終日(3日目)に商品としてプレゼンテーションするため、コンセプト設定、アイデア開発、デザインワークやビジネスの枠組み検討まで、一日で一気に進めます。

全員集合し、進め方を確認した後は、各チームごとに部屋にこもり、デザイナーも学生も、ユーザーさんも、一緒になってワークを進めます。

各ステップとも、チームごとに進捗は違います。各チームで議論をフォローしているメンターが、ファシリテータの藤木武史さんや木暮毅夫さんと各チームの進捗を共有しながら、各ステップの議論をどこまで進めるか、どこまでの完成度にするか打ち合わせながら進めます。またファシリテータは1-2時間ごとに各チームの議論状況をチェックに訪れ、進め方についてアドバイスしたり、ヒントを出したりしながら、最終報告でのアウトプットにつながるよう、強力に誘導します。

ファシリテータとメンターの綿密な連携により、どのチームも上流から下流までバランスよく議論を進めることができ、最終日のプレゼンにつながりました。

● 気づきの整理から、コンセプト作りへ

フィールドリサーチでの持ち帰りは多様なものになりました。ここから、最終プレゼンでは、障害者にとどまらない、誰にとっても価値を認められる商品に仕上げる必要があります。持ち帰ったものの棚卸しをしながら、食事のシーンでの発見がよいか、移動がよいか、施設内での体験がよいか?見つけたことは、他の対象者にも有用か?どれくらいの対象者への価値提供にするか?ビジネス化の可能性やプレゼンでの実現度なども考えながら、コンセプトを議論します。

● デザイン・事業プラン

プレゼンでは、コンセプトを具体的にどう実現するか、また、障害者に限らず幅広いお客様にとって価値を認めてもらい、マネタイズが可能か、発表することが求められます。もちろん、わずか3日ですから、事業計画の実現性を問うことは出来ません。しかし、デザインは事業性から遊離して考えられるものでなく、常に事業性を勘案し、ターゲットに対する価値提供をマネタイズ出来る形で認識していることが求められます。インクルーシブデザインアイデアソンでは、商品としての実現性も見据えたデザインプロセスの体験を重視しています。わずか3日ながら、コンセプトをベースに、商品の価値とお客様が有用性を感じる可能性、マネタイズの可能性を探索し、商品アイデア、使用シーン、ストーリーなどを、ともかく短時間で具体化していきます。

● プロトタイピング

プロトタイプの例

プレゼンでは、構想した商品の有用性、ユーザビリティ、アクセシビリティなどを、プレゼンを聞く人達に理解してもらう必要があります。そのため、いくつかのチームが、プレゼンをプロトタイプと寸劇を組み合わせたものに決定しました。

短時間のため、段ボールなど限られた素材ですが、椅子と組み合わせた大型設備、バッグ、デバイスなど、様々なプロトタイプが作られました。

最終日、半日のブラッシュアップの時間を残して、2日目は終了しました。

第3日目(9月17日) 

各チーム、短い時間でのブラッシュアップののち、各チームから最終プレゼンテーションを行いました。

インクルーシブデザイン開発で抑えるべき4つの留意点を説明する画像です。
藤木武史ファシリテータから示された、プロセス・アウトプット確認の観点

プレゼンテーションは初日講義を行った階段講義場で実施されました。 まず、ファシリテータの藤木武史さんから、これまでのプロセスを振り返って、プレゼンテーションで留意すべき開発のポイントについて注意を行いました。

● 最終プレゼンテーション

各チームは、ファシリテータの注意事項に基づきプレゼンテーションを行いました。

プレゼンテーションは、各チーム、デザイナー・学生・メンターに加え、ユーザーさんもプレゼンターの一人になって、共同で発表します。特に、各チームの商品特性は、ユーザーさんが、どのような不便な点が、どのように解消されたのか、自らアピールします。

プレゼンされた商品やサービスの内容は、それぞれ観点も内容も大きく異なるものになりました。各チームから提案された商品・サービスは、下記のようなものでした。

■ 視覚障がい者とゲームセンターで「もぐらたたき」を一緒に楽しんだ体験から、どんな人も一緒に楽しめる打楽器型のゲーム。

■ ちょっとしたことをかがんで伝えるのが難しい車いすのパートナーの観察から、ささやきを拾って伝えるタトゥー。

■ 喧噪のなかでも、触れることをきっかけに骨伝導で声を届ける、Tシャツとイヤホン。

■ 車いすに乗ったままでも開きやすく、机としても使えるバッグ。

■ 目が見えなくとも、周りにどんな店や商品があるのか、音で知らせてくれ、偶然の出会いを楽しめるペンダント。

プレゼンテーションでは、チームごとに熱心な質疑応答が行われました。他チームのユーザーさんからも、違う障がいの観点から、新たな気づきをいただきました。 プレゼンテーションは、Zoomを通して会場外の来賓の方々にもリアルタイム共有されました

● 来賓のみなさまのコメント

プレゼンテーションのためにご来場いただいた株式会社ユーディット会長兼シニアフェローの関根千佳様、今回のアイデアソンを準備段階からご協力・ご支援いただいた芝浦工業大学教授、橋田規子様、オンラインでプレゼンテーションをご覧いただいたトヨタ自動車株式会社ビジョンデザイン部部長、中島孝之様から、それぞれ、商品の観点、障害への観点への評価やヒント、デザインにおけるインクルーシブな視点の重要性、デザイナーのスキルアップの観点など、多様な観点から評価、批評、お励ましをいただきました。

これをもって、3日間の濃密なデザインアイデアソンは終了しました。

アンケート

参加者の皆様へアンケートを行いました。

まるまる3日間を使いながらも、課題発見から商品提案まで、デザインがビジネスにかかわるすべての領域を体験するコンテンツのため、時間的には「やや短い」という評価が多かったようです。しかしそれでも、全体を通しての評価は概ね「満足」で、濃密かつ有益なワークを行っていただけたものと感じております。

ユーザーさんとのワークなどを通して、障がいやインクルーシブデザインについての実感がわいたという感想もありました。また、言葉では伝えにくいので、アイデアソンにどんどん参加してほしいというコメントもいただいています。

開催者として大変うれしく感じており、是非何等かの形でデザイナー皆様との活動を継続できればと思います。また今後皆様にも社内でインクルーシブデザインの輪を広げていただき、各社商品を通してインクルーシブデザインを浸透していただきたいと思います。

今後、2023年度も、アイデアソンを開催する予定です。さらに気づきが多く、さらに参加しやすいアイデアソンに仕上げてまいりますので、ご期待ください。

過去のアイデアソン

2021年度

2021年11月9日(火):オンライン ワークショップ(チームビルディング、グループディスカッション)
2021年11月10日(水):オンライン ワークショップ(グループディスカッション、グループ発表)
2021年11月11日(土):オンライン プレゼンテーション

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2020年度

2020年12月12日(土):オンライン ワークショップ(チームビルディング、気づきゲーム、ユーザーとのディスカッション、チーム中間発表、今後の進め方)
2020年12月23日(水):オンライン ワークショップ(グループ発表資料作成)、発表、まとめ

2019年度

2019年 8月30日(金):座学・ワークショップ
2019年 8月31日(土):フィールドリサーチ・ワークショップ
2019年 9月21日(土):発表・まとめ

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