
インクルーシブデザインアイデアソンのご紹介は、こちらをご覧ください。
https://incl-design.net/ideathon-outline/
【実施報告】インクルーシブデザインアイデアソン2025
~「できないこと」を「できること」へ変えるデザインの探求~
特定非営利活動法人インクルーシブデザインネットワークは、2025年9月11日(木)から13日(土)の3日間、芝浦工業大学豊洲キャンパスにて「インクルーシブデザインアイデアソン2025」を開催しました。企業デザイナー、学生、そして多様な特性を持つリードユーザーが一堂に会し、「ユーザーがいつの間にか諦めてしまっていることを見つけ、それを実現する」というテーマのもと、熱いデザインワークショップを展開しました。
本レポートでは、3日間にわたるアイデアソンの内容を時系列で報告します。
- 会期 2025年9月11日(木)~13日(土)
- 会場 芝浦工業大学 豊洲キャンバス
- 協力 学校法人 芝浦工業大学
- 参加企業 株式会社アイシン、コクヨ株式会社、小島プレス株式会社、ダイハツ工業株式会社、TOTO株式会社、豊田合成株式会社、トヨタ自動車株式会社、トヨタ車体株式会社、日本電気株式会社、日野自動車株式会社、富士通株式会社、ブラザー工業株式会社
- 参加大学 開志専門職大学、芝浦工業大学
【第1日目:9月11日(木)】課題の発見と共感
開会式、概要説明、インクルーシブデザイン座学
アイデアソンは芝浦工業大学豊洲キャンパスに集合し、開会式からスタートしました。西川昌宏理事長および協力いただいた芝浦工業大学の橋田規子教授よりごあいさつをいただいたのち、藤木武史ファシリテーターから、趣旨・リードユーザー紹介とインクルーシブデザインの講義を行いました。
- 趣旨説明とリードユーザー紹介:藤木武史ファシリテーターより、本アイデアソンの目的として、インクルーシブデザインの理解、プロセス体験、異業種・異分野メンバーとの協業、そしてデザインを自社に持ち帰って広げることの重要性が語られました。また、各チームに分かれる前に、5名のリードユーザーの特性や、事前に聞いた「諦めていたこと」「したいこと」が全体に共有されました。 今回のテーマは、「自身でできる、景色が変わる」をデザインする です。
- インクルーシブデザイン座学:インクルーシブデザインとは「多様な人々を排除せず、上流段階から巻き込んで一緒に物事を進めていく」こと、そしてその目的が「新しい市場の開拓」と「全員のハッピー」に繋がることが解説されました。


しめくくりとして、芝浦工業大学副学長 磐田朋子様からの参加者へのビデオメッセージを全員で共有し、終了しました。
チーム発表と自己紹介、フィールドリサーチ、中間報告
参加者はAからEの5チームに分かれ、自己紹介と役割分担を決定した後、フィールドリサーチに出発しました。





- フィールドリサーチ:各チームはリードユーザーの困りごとを確認しながら(観察と対話)、ルートを自由に選択し、昼食を挟んでリサーチを実施しました。




- 各チーム発表:帰校後、各チームがフィールドリサーチでの気づきや課題をまとめ、簡潔に報告しました。 豊洲駅や月島、ららぽーと、ファミレス、カフェ、楽器店など、多様な場所でフィールドリサーチを行ったことが報告されました 。メンバーは電車移動や買い物、食事、楽器へのアクセスといった行動を共にしてリードユーザーを観察し、対話を行いました 。その結果、「セルフレジやロボット配膳が使えない」 、「重い荷物を持つのが苦手」 、「高いところのものが届かない」 、「楽器に触らせてもらえない」 、「会話の視線が合わない」 、「ライブのラグ(ズレ)」 など、生活に潜む多様な課題や、「自由に選び取ること」の難しさ といった気づきが得られました。これらを踏まえ、翌日から具体的なテーマ設定とアイデア創出を進める方向性が共有されました 。
【第2日目:9月12日(金)】デザインテーマの決定とアイデア創出
課題の整理と提案、チームテーマ決定
集合後、前日の振り返りとデザインの方向性について講義が行われ、各チームでチームテーマを議論し決定しました。
- 講義内容(藤木武史ファシリテーター):
- 気づき:セルフレジやタッチパネルなど、技術の進化が逆に障害を持つ方には使いにくくなっている例が挙がりました。また、熟練した支援者とそうでない人との対応に大きな違いがあり、コミュニティの重要性も指摘されました。
- デザインの目的:「課題解決(OK)」で終わるのではなく、「ハッピー(HAPPY)」まで持っていくことが今回のポイントであり、多くの人にハッピーを届けられるかが重要であると強調されました。
- 視点の拡大:リードユーザーのためだけでなく、そのデザインが「次の市場(高齢者施設、子育て層など)」にも発展するかを常に意識するようアドバイスがありました。
- チームテーマ決定:各チームは、藤木ファシリテーターの支援を受けながら議論し、「何をデザインするか」のテーマを決定しました。
デザイン検証、中間発表
- デザイン検証:藤木武史ファシリテーターが各チームを巡回し、テーマ決定の確認と「誰がHAPPYか?」という視点でのアドバイスを行い、議論の方向性が調整されました 。あるチームでは、提案が身長差だけでなく、多様なユーザー(車椅子、外国人など)の課題を網羅できるかという視点が共有されました 。他のチームでは、日常の課題が困難な場合、「非日常(観光地)」を入口に「声をかけやすい仕組み」を作り、それを日常へ波及させる方向性が提案されました.。さらに他のチームでは、ライブの「ラグ」解消に留まらず、「記憶に残る体験」や「サプライズ」要素を加えることで、より大きなプラスアルファの価値を生むよう促されました。



- 中間発表:各チームの進捗状況が共有され、質疑応答とディスカッションが行われました。 中間発表では、昼食時の「誰がHAPPYか?」「次の市場を意識せよ」というナビゲーターの助言が反映され、観光地でのサポートを求めやすくする、片付け負担の解消による自己表現、立つ・座るを問わず目線を合わせる工夫、自然なコミュニケーションの創出、ライブの「ラグ」を超え、振動で「一体感ある記憶」を生む提案など、各チームの議論の焦点は課題解決から付加価値と幸福の追求へと移行していることが共有されました。リードユーザーからも「自分の潜在的な要求に気づかされた」との声があり、視点の転換が成果に繋がりました。また、煮詰まったら一度視点を変えてみることの大切さについてコメントがありました。

【第3日目:9月13日(土)】プレゼンテーション発表会
最終日は午前中に簡易モデルでのユーザー検証やプレゼンテーション作成を行い、午後から発表会に臨みました。


14:00〜16:40:プレゼンテーション発表会
3日目に行われたプレゼンテーション発表会の成果内容は、多様なリードユーザーの「したいこと」を実現する具体的なソリューションとして結実しました。

提案ソリューションの特徴
提案されたソリューションは、多岐にわたるリードユーザーの「したいこと」を実現するものでした。視覚障害者向けには、非日常の観光地で助けを求める心理的ハードルを下げる光と音のコミュニケーションデバイスが、聴覚障害者向けにはライブの一体感を振動で共有するペンライトが提案されました。また、低身長者や車椅子ユーザー向けに、立ち飲みや会話の場で目線やコミュニケーションを調整するモジュールユニットや、筋力低下者向けに片付けの負担なくアートを楽しめる簡易描画スペースと混色ペンが考案され、「参加」と「表現」の機会を創出するデザインが目立ちました。



質疑・コメント
審査員やリードユーザーからの質疑・コメントは、提案の着眼点とユーザーへの感情的価値を高く評価しました。特に、「困っている人が自ら行動を起こし、周囲が集まる仕組み」や、「物理的な高さだけでなく、気持ちの目線に着目する」といった、本質的なデザイン思考が称賛されました。リードユーザーからは「外を歩くのが楽しみになる」「夢が広がった」「自分でも気づかない困りごとを掘り起こしてくれた」といった、アイデアによる感情的な変化への喜びが多く寄せられ、感動的な着想が市場性や製造面での課題を超越する価値を持つことが示されました。
16:50〜17:50:講評・閉会式
日本電気株式会社の井手裕紀様、コクヨ株式会社の三井隆史様、トヨタ自動車株式会社の中嶋孝之様から、アイデアの着眼点、市場性、そしてデザイナーとしての姿勢について、多角的な講評をいただきました。アイデアの着眼点、市場性、そしてデザイナーとしての姿勢という多角的な視点で講評が寄せられました。特に、リードユーザーの「できないこと」を「したいこと」に変えるために、「目線を変える」ことや「ネガティブをポジティブに変換する」という本質的なデザイン思考の重要性が共通して強調されました。このアイデアソンで得た気づきや熱量を、参加者がデザインを自社に持ち帰り、より豊かでインクルーシブな社会を創造するきっかけとしてほしいという、各企業からの期待が示されました。

日本電気株式会社
コーポレートデザイン統括部
部長
井手裕紀様

コクヨ株式会社
グローバルプロダクト開発本部長
本部長
三井隆史様

トヨタ自動車株式会社
ビジョンデザイン部
部長
中嶋孝之様
続いて、名誉総裁の瑶子女王殿下の「お言葉」が、藤木ファシリテーターにより代読されました。
藤木武史ファシリテーターからは総括として、インクルーシブデザインが「障害は個性」として捉え、その個性をオーバーするような人生を創造することに繋がるというメッセージを皆さんに届けました。
最後に、修了バッジを参加者の皆様に授与、「インクルーシブデザイン宣言」を朗読し、アイデアソン2025は閉会しました。
終わりに
3日間にわたり、多忙な業務や学業の合間を縫ってご参加いただいた皆様、そしてアイデアソンの核となるご協力をしてくださったリードユーザーの皆様に、心より感謝申し上げます。本アイデアソンで生まれた熱量と気づきが、皆様の日常業務、そして社会全体に、より豊かでインクルーシブな未来をもたらすことを期待しています。

過去の参加企業参加実績企業一覧(50音順)
株式会社アイシン、株式会社コンセント、コクヨ株式会社、株式会社島津製作所、ダイハツ工業株式会社、TOTO株式会社、豊田合成株式会社、トヨタ自動車株式会社、トヨタ東日本株式会社、トヨタ紡織株式会社、日本電気株式会社、日産自動車株式会社、日野自動車株式会社、富士通株式会社、ブラザー工業株式会社、他
過去のアイデアソン
2025年度
インクルーシブデザインアイデアソンin関西
2025年4月17日(木):ワークショップ(チームビルディング、フィールド調査)
2025年4月18日~23日:ワークショップ(チーム作業、グループ発表)
2025年4月24日(木):プレゼンテーション
➡ 報告
2024年度
2024年9月12日(木):ワークショップ(チームビルディング、フィールド調査)
2024年9月13日(金):ワークショップ(チーム作業、グループ発表)
2024年9月14日(土):プレゼンテーション
➡ 報告
2023年度
2022年9月14日(火):ワークショップ(チームビルディング、フィールド調査)
2022年9月15日(水):ワークショップ(チーム作業、グループ発表)
2022年9月16日(土):プレゼンテーション
➡ 報告
2022年度
2022年9月15日(火):ワークショップ(チームビルディング、フィールド調査)
2022年9月16日(水):ワークショップ(チーム作業、グループ発表)
2022年9月17日(土):プレゼンテーション
2021年度
2021年11月9日(火):オンライン ワークショップ(チームビルディング、グループディスカッション)
2021年11月10日(水):オンライン ワークショップ(グループディスカッション、グループ発表)
2021年11月11日(土):オンライン プレゼンテーション
➡ 報告
2020年度
2020年12月12日(土):オンライン ワークショップ(チームビルディング、気づきゲーム、ユーザーとのディスカッション、チーム中間発表、今後の進め方)
2020年12月23日(水):オンライン ワークショップ(グループ発表資料作成)、発表、まとめ
2019年度
2019年 8月30日(金):座学・ワークショップ
2019年 8月31日(土):フィールドリサーチ・ワークショップ
2019年 9月21日(土):発表・まとめ
➡ 報告

