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インクルーシブ テーマトーク

「2023年度 第1回 インクルーシブ・テーマトーク」開催ご案内

開催日

2023年7月20日(木曜日)
16:00~17:30 第1部:講演および質疑応答
17:30~18:30 第2部:フリートーク(任意自由参加)

開催方式

Zoomによるオンラインセミナー

講演議題

「CSUNカンファレンス2023」にみるインクルーシブデザインの最新動向と日本の課題

講演者

関根 千佳 様
・株式会社ユーディット会長兼シニアフェロー
・元同志社大学政策学部教授
・放送大学・美作大学客員教授
・特定非営利活動法人インクルーシブデザインネットワーク

講演内容

昨年度に引き続き、CSUNへの参加報告及び考察を中心にお話いただきました。

昨年度の時系列のご報告に対し、今年度はテーマ別にご報告いただきました。(詳細は関根様の「CSUNレポート」を参照ください。)
http://www.udit.jp/report/tour/1031/

1米国政府及び政府機関

 連邦政府では職員の7%から15%も障害者が雇用されていることから、米国の省庁は、毎年、たくさんのCAO(Chief Accessibility Officer)が参加し、各省庁の取り組みを紹介している。日本にはない73年のリハ法504条成立時に連邦政府に作られた独立機関、AccessBoard(米国アクセス委員会)が政府内に存在している。ボードメンバーは各省庁からの委員12名と、大統領に直接任命される障害当事者13名で構成されており、米国のアクセシビリティに関する政策決定や基準策定を行う。欧米では、インクルーシブな教育と雇用が連携しており建物も、サービスも、ITも、全てがUDでなくてはならないという方針は、障害のある人が、同等に教育を受け、就労し、活躍できる社会の実現につながっている。

 NASAのセッションでは、AIの進展はアクセスのためのバリアが除去を進め、政府の障害者雇用が3倍になる予測が語られていた。アクセシビリティは、①連邦政府がICTを購入するためのドアを開く ②企業はより広い顧客層へリーチできるようになる ③顧客体験(Customer Experience)を改善できるという3つの理由で、「アクセシビリティは産業界と政府の双方にメリットがあるWin-Winのアプローチだ」と述べられた。

 日本の文科省にあたるDOE(Department of Education)のセッションでは、OSEP(Office of Special Education Programs)が、ゼロ歳児から21歳までの障害のある児童生徒への教育プログラムに、ICTやAT利用を進める話題が展開された。OSEPが進めているプログラムは、「ETechM2」(Educational Technology Media and Materials Program)と呼ばれ以下の3項目を目的としている。目的として、以下のような内容が挙げられ①テクノロジーを開発し、デモし、利用することを推進し、②教室内での教育効果を高めるようデザインされた教育活動を支援し、③教室内での使用に適したキャプションやビデオ解説のサポートを提供し、④障害のある子供たちにアクセシブルな教材をタイムリーに提供する

 この目的を達成するために、OSEPは、次の7つの技術分野に投資しているという。
①アクセシブルな教育素材
②技術の研究と開発
③音声解説とキャプション
④高等教育機関で人事準備プログラムにおける技術利用
⑤学校のシステムで支援と教育技術を利用
⑥幼児期からのSTEM教育(science, technology, engineering and mathematics
⑦技術の実装と統合

2欧州のアクセシビリティ政策

 オーストリアからKlaus Hoeckner氏(オーストリア最大の視覚障害者組織の副会長)が来てヨーロッパのアクセシビリティ政策に発表した。EUは、社会権に関する20の柱(European Pillars for Social Rights)という宣言を行い、性別、年齢、障害、環境などにかかわらず、2021年から30年までに、全てのEU市民がインクルードされる社会にするための政策を宣言している。この宣言は、国連の障害者権利条約と呼応し、EUの全ての加盟国がこの権利条約を実効性のあるものにするためを明言している。

 情報アクセシビリティもその一環である。EUの中では、ICTの公共調達やWebアクセシビリティに関する指令など、多くの方針が出されてきたが、EAA(European Accessibility Act)は、それらを統合した形であるともいえる。

 EAAでは以下のようにICT全般をカバーしている。
・コンピューターとOS
・ATM、チケットマシン、チェックインマシン
・電話、スマートフォン
・デジタルテレビサービスに関するテレビ設備
・電話サービスや関連機器
・テレビ放送や関連する消費者設備のような放送通信メディアサービス
・航空機、バス、電車、船などの輸送に関するサービス
・銀行サービス
・電子書籍 ・電子商取引

3主な企業の取り組み

Apple
 一般のiPhoneやiPadのUD対応が大きく進み、単体でできることが劇的に増加している。「Live Captioning(リアルタイム字幕)」のベータ版の紹介も行われた。

Amazon
 リアルなユーザーニーズをどのように把握して解決するか、障害当事者を入れ、社内部門横断のハッカソンチームを作って成果を競い合っている。その結果、ニーズ把握、アイデア出し、企画、プロトタイピング、実装などのあらゆる場面で、データやコミュニケーションのUDが必要となり、チームメンバーは、知らず知らずのうちに、UDを前提とした情報作成や提示が当たり前になっていく。

Microsoft
 3Dプリンターで個々人に合わせたアタッチメントをオンラインでオーダーしたり、身近にプリンターがあれば自分で作ったりと各人の状況に合わせた対策の提供を可能にするサービスが紹介された。

LEGO
 点字LEGOを用いた、いろんな遊び方の紹介があった。まずはゲーム感覚で触覚で並べてみる!というシンプルなものに始まり、遊びながら点字を覚えるまで到達する。

日本国内企業ではSONYの取り組みの紹介があった。

4その他

 米国の大学の取り組みや、個々のテクノロジーの紹介があった。キオスク端末ではATの接続が標準化されており、実際に様々な障害のある障がい者が日常的に利用している場面も見られた。

 講演に引き続き、フリートークでは、今後日本は、そして私達は何を成すべきか活発な議論が行われた。

過去のインクルーシブ・テーマトーク

2023年度 トヨタグループ
2023年4月11日(火)

「テーマ『シビックテックとアクセシビリティ』について
 ~UDトークのいままでとこれから

・青木 秀仁 様:Shamrock Records株式会社代表取締役、一般社団法人Code for Nerima代表理事

➡ 報告

2022年度 第2回
2023年2月7日(火)

「誰もが等しく直面する『ヒアリングフレイル』の理解とその対応策について」

・中石真一路 様:聴脳科学総合研究所 所長、ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 代表取締役

➡ 報告

2022年度 特別企画
2022年10月4日(火)

「UD・インクルーシブデザインにおける新たな活動と世代間の共創に関して」

・Blined Project様
・大阪工業大学 高橋 基就 様
・芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 教授 橋田規子 様、学生の皆様

➡ 報告

2022年度 第1回
2022年7月5日(火)

「CSUNカンファレンス2022」にみるインクルーシブデザインの最新動向と日本の課題
・関根 千佳 氏:株式会社ユーディット会長兼シニアフェロー、同志社大学客員教授、特定非営利活動法人インクルーシブデザインネットワーク顧問

➡ 報告

2021年度 第3回
2022年3月23日(水)

『パラリンピックの残したもの』~パラリンピックで進んだこと、まだまだ残る課題~
・川内 美彦 様:アクセシビリティ研究所主宰 
・小川 歩美 様:オンボラ・コミnet 共同代表

➡ 報告

2021年度 第2回
2021年10月20日(水)

「社会課題と実践事例:『モバイルトイレ』の開発と社会に示す新たな可能性」
・トヨタ自動車株式会社 社会貢献推進部 内山田 はるか 様
・トヨタ自動車株式会社 ビジョンデザイン部 インテリアデザイン室 飯島 泰昭 様
・NPO法人 アクセシブル・ラボ 代表理事 大塚 訓平 様

➡ 報告

2021年度 第1回
2021年7月27日(火)

「実践事例:インクルーシブデザイン視点で既存エレベーターホールの動線改善」
・株式会社コンセント プロデューサー 堀口真人 様